小説 「非道徳」

股の痒さに気をとられながら昼間から即席ラーメンを茹で
首をタオルを巻き 己が今年でいくつになったかなど
数えたくもない男が台所用のスポンジに洗剤を含ませていると
母子家庭の家の子供がおどけた顔をしながら
親のセックスが終わるまで 存在しない人間になるため
ボールを蹴飛ばすその音とゴムの匂いが厭でたまらないので
うるせえ、と低い声を忍ばせてみるとその瞬間にピタリと音はやんだが
蝉の鳴き声は一層激しくなり腹を空かせた子供は汗の染みた縄を齧っている
早く夏が終わりますように、と少年の小さな胸は願った


6年前付き合った女は「子供、3人とも---でね」と言った。
薄暗い部屋と、もうずいぶんと敷かれっぱなしの布団の中で
私は気にすることはない、子供は君を選んで産まれてきたのだ、
意味があってそうなっているのだ だから大丈夫だ。と
ざらりとした女の肩を抱いて慰めてはみたが、
私の心に産みつけられた蛆の卵がプツプツと音をたて破れ始める。
その蛆には1つ1つ顔があり人格があり言葉があり表情があるが、
皆揃ってこちらを向いて微笑んでいるのだ。 

『糞尿まみれの陰茎を握って快感に耽っているセンズリのような
お前の偽善、見せかけの善人、その醜い心は甘酸っぱくて旨い』
蛆が耳元で囁き続ける。

私は他人を思いやったり手を差し伸べようとするたびに
いつもその蛆が私の心に這い回る感覚に耐えられず、
体が痛くなって痒くなって金玉の皮が惨めにはがれ落ちるのを感じ、
茹で上がった海老のように背骨を丸め爪を噛んで眠るしかない。

助けてやろう、何かしてやろうと思うその時
頬の皮膚を通る血管が凝縮し薄っすらと赤く染まり 
恥、恥、と囁かれている気がした。
道徳という言葉から耳を塞いでもう何年にもなる。


女は「--ちゃん、優しいなぁ。」と微笑んだがその言葉に肉は詰まっていない。
またその女の心の中にも よじのぼる蛆が大勢いて、
振りほどくのに必死になっているだけだと私は思った。

『  』と目を閉じながら呟いて眠りに入る女を横目に
御免だ、とっさに思ってしまうあの時の虚しさを、
私はあなたにどうやって伝えればいいのだろう。


私は苦しみ続ける 掻き毟るような胸の痛みから
逃れられる方法を知っているのに それでも苦しむ方を選ぶ
それは医者へ行けば治るような病気を金がかかるからという理由で
放置して ただ傷が腐るのを待っている連中と似ている


「それにしても」 暑い。
夏とは、こんなにも私に劣等感を覚えさせる季節だったのだろうか。





( 著者 セックス水死体 小説『非道徳』より抜粋 )